工学院大学は新宿キャンパスと八王子キャンパスから成り、双方のキャンパスに図書館があります。八王子キャンパスの図書館建て替えを機に、寺田倉庫の図書館ソリューションを導入しました。今回は図書館ソリューションの導入の背景と効果について、工学院大学図書館長を務められた加藤 潔先生にお話を伺いました。
八王子キャンパスの図書館の建て替え
― 図書館ソリューションを導入するに至った背景をお聞かせください。
八王子の図書館は北欧の建築家に学んだ本校の教授 武藤氏の代表作で、著名な建物でした。しかし、現在、策定されている新しい耐震基準には合致していませんでした。当学としては、補強工事を行って後世まで残したいという想いはありましたが、補強工事をするとなると見栄えが悪くなる、使い勝手が悪くなるなど、どうしてもネガティブな要素が拭いきれません。そこで2013年、残念ながら建て替えの道を選択しました。
耐震基準を満たす図書館に建て替える場合、通常であれば、まずは現在の図書館を残しつつ新しい図書館を別の場所に建ててから、現在の図書館を取り壊すのが一般的だと思います。ところが、この方法では国の補助金を利用することができません。現在の建物を取り壊さないと補助金が出ないという状況でした。
となると、少なくとも仮設図書館を設置しなければ運営できません。仮設図書館を設置したとしても、10万冊以上の蔵書を仮設図書館に置くことは不可能です。それで、蔵書を外部保管しながら仮設図書館を運営する方法を模索し始めました。
外部保管に求めた4つの要件
― 蔵書を外部保管するうえで、求めた要件をお聞かせください。
当学は以下の4つを要件に、物流の倉庫業者などを中心に蔵書の外部保管に対応できるところを探しました。
1. 10万冊以上の蔵書を劣化させずに管理できる
10万冊を保管できるスペースはもちろん、特別コレクションもあったため、温度管理や湿度管理によって本の劣化を最小限に抑えられる環境が望ましいと考えました。
2. 図書館サービスの質を低下させない
学生の学習機会を奪わないよう、読みたい本をリクエストした際、1~2営業日後に倉庫から仮設図書館まで届けてくれる仕組みが必要でした。
3. 司書の業務が増えない
外部保管によって、司書の業務が新たに増えることは避けたいと考えました。
4. 適切なコストである
年間の外部保管費用が図書館の予算規模からみてリーズナブルであることを要件としました。
要件をすべて満たした寺田倉庫の図書館ソリューション
― 外部保管の業者はどのようにして選定されたのでしょうか。
キャンパスがある八王子近隣の物流系倉庫をいくつかピックアップし、事務局が問い合わせてみました。預けっぱなしのトランクルームレベルのサービスであれば、引き受けてくれる倉庫はたくさんあったようです。しかし、当学がお願いしたのは、1~4までの要件を満たしていること。残念ながら、具体的な話まで進む倉庫はありませんでした。
そんなとき、ある先生から「良い倉庫がある」と寺田倉庫の図書館ソリューションを紹介していただきました。
― 寺田倉庫の図書館ソリューションを選定した理由を教えてください。
図書館に関わる当学のスタッフと一緒に倉庫を見学したこと、幾度かのミーティングなどを経て、当学が挙げていた要件を寺田倉庫の図書館ソリューションはすべてクリアできることが分かりました。
1. 安心して保管できる倉庫設備を保有している
見学に行く前までは、倉庫のイメージは体育館のような大きな建物がいくつも並ぶ広大な空間を想像していました。ところが寺田倉庫は、想像とはまったく異なりました。広大な空間に加え、ワインセラーから美術品まで保管できる空調設備が整っていたのです。しかも、依頼すればドライクリーニングや燻蒸、ホコリ・カビ取りなどのメンテナンスも行ってくれるとのこと。これなら、安心して蔵書を預けることができます。
2. 翌営業日には学生の手元に蔵書を届けることができる
寺田倉庫では、オンラインで蔵書の在庫確認から入出庫まで管理できる出納システム「eTRUNK」がすでに構築されており、これが、図書館の抱えている問題のソリューションになると思われました。大学の蔵書検索システム「OPAC」との連携が可能と伺い、図書館と寺田倉庫とで蔵書をシームレスに管理するスキームを構築できると考えました。出納のリードタイムも、蔵書の請求を受けてから翌営業日には学生に貸し出せるとわかり、サービスレベルを落とさずに外部保管が実現できると考えました。
3. 司書の業務を効率化できる
図書館ソリューションは蔵書の保管、出納、除籍、メンテナンスまで、図書1冊単位から行ってくれます。つまり、図書館に関わる業務のほとんどをアウトソースすることができます。当学としては蔵書点検などの効率化だけでなく、司書業務の環境整備に注力できると思いました。
4. 適切なコストでアウトソースできる
上記のようなサービスを受けられ、かつ保管にかかる費用もかなりリーズナブルであることがわかりました。出納システムも無償で利用することができます。
<出納スキームの概要図>
導入後の効果について
― 図書館ソリューションを活用することで、どのような効果が得られていますか。
2015年7月に蔵書の移管を開始し、八王子仮設図書館から八王子新2号館に生まれ変わった現在も、寺田倉庫の図書館ソリューションを継続して利用しています。その効果については主に以下が挙げられます。
1. 書架スペースをラーニング・コモンズに転換
八王子キャンパスの新たな図書館 八王子新2号館では、蔵書の9割を寺田倉庫で保管。これにより、以前までの書架スペースにラーニング・コモンズと学習支援センターを設置することができました。
そもそも建て替えの際、寺田倉庫に預けていたすべての蔵書を八王子新2号館に戻す話もありました。しかし、限られたスペースにたくさんの本を並べるよりも、学生の学習スペースを確保することを優先すべきと判断。寺田倉庫の図書ソリューションが順調に稼働していたこともあって、そのようなコンセプトに基づいた新図書館のレイアウトをデザインすることができました。
おかげさまで倉庫図書館の体制を引継ぎつつ、八王子新2号館の蔵書は必要最小限。そして、ラーニング・コモンズおよび学習支援センターの設置により、グループ学習や討論会など、さまざまな学習形態への対応と魅力的な空間創出を実現できました。
2. 図書館利用者数の増加とオープンキャンパス来場者数の増加に寄与
ラーニング・コモンズを設置したこともあって、八王子新2号館は以前の図書館と比べて利用者数が増加。旧図書館利用者が月平均約3000人だったのに対し、約1万人と3倍に急増しました。学びの場として、いつ訪れても活気に溢れています。しかも、オープンキャンパスの来場者もラーニング・コモンズを高く評価。年々、オープンキャンパスの来館者が増加しています。八王子新2号館の図書館とラーニングコモンズが学生の募集戦略上、重要な役割を担っています。
3. 司書の働き方が変化
逆説的ではあるのですが、蔵書のほとんどが倉庫保管になると、読みたい本を探すために学生が司書に相談するようになったのです。これまで蔵書の貸し出しや配架作業などが業務の中心でしたが、レファレンスなど司書本来の業務が増え、スタッフのモチベーションも向上しています。さらに、司書は書籍のプロですから、学生にとっても欲する以上の情報を得ることができ、双方にとって有益です。こうしたコミュニケーションを通じて、学生がどのような情報を求めているのか的確につかみ、図書館のサービス向上に役立てています。
大学にとって倉庫図書館は最良の選択肢のひとつ
― 寺田倉庫の図書ソリューションを活用する先輩ユーザーとして、蔵書の保管に悩む各大学に向けてアドバイスをお願いします。
図書館にたくさんの蔵書を置けるスペースがあれば問題ありません。しかし、当学を含め、多くの大学は使えるスペースに限界があります。そうなると、当学のように寺田倉庫の図書ソリューションを倉庫図書館として活用する方法は、ベストな選択のひとつだと思います。当学に問い合わせがあった場合には、いつも寺田倉庫の図書ソリューションを紹介しています。実際に導入するかどうかは別として、寺田倉庫を見学する価値はあると思います。
― 最後に寺田倉庫に対する今後の期待をお願いします。
現在は新宿図書館の蔵書も寺田倉庫に保管をお願いしております。また、特別コレクションの保管のほか、劣化してきた昔の修士論文をPDF化する電子化サービスなども寺田倉庫にお願いしています。今後も良いアイデアがあればご教示いただきたいというのが本音で、安定したご協力を期待しています。引き続き、よろしくお願いします。
参考:図書館建て替えと寺田倉庫の運用経緯
2013年8月 |
八王子キャンパスの図書館建て替えを決定 |
2015年6月 |
図書館と寺田倉庫で図書を管理できるスキームを構築 |
2015年7月 |
旧図書館から寺田倉庫へ移管開始(12万冊) |
2015年8月 |
図書を選定し八王子仮設図書館に配架を実施 |
2015年10月 |
新宿図書館、八王子(仮設)図書館、寺田倉庫図書館の3館体制で運用を開始 |
2017年2月 |
3万冊を寺田倉庫へ追加移管 |
2017年4月 |
八王子新2号館竣工 |
2019年現在 |
寺田倉庫図書館を継続運用 |
参考:工学院大学八王子キャンパス新2号館紹介動画
お客様プロフィール
名称 | 学校法人工学院大学 |
創立 | 1887(明治20)年 |
業種 | 大学 |
学生数 | 6278名(2018年5月1日現在) |
ホームページ | https://www.kogakuin.ac.jp/ |
1887(明治20)年の開学以来、「工業の発展にともなう社会・産業界のニーズ」と「最先端の技術研究という学問分野の発展」をつなぐ専門技術者育成の場として、10万人を超えるものづくりのプロを世の中に送り出してきた工学院大学。4学部15学科の工科系総合大学となった現在も「豊富な知識」「社会で生きる力」「自己実現を志す意識」を備えた質の高い人材を育成することを使命に掲げ、成長し続けています。
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取材:2019年5月
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